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若竹七海棚 (2004.11.01 up)

『依頼人は死んだ』  連作短編集 9編を収録

<あらすじ>

 ≪濃紺の悪魔≫ 「週間小説」 98年9月4日号所載

 以前、長谷川探偵調査所に勤めていた葉村晶は無職だった。久しぶりに長谷川所長に仕事の話を持ちかけられ、契約探偵として働くことに。最初の仕事は女性実業家・松島詩織身辺警護。しかし、詩織への嫌がらせは日に日にエスカレートしていく。これはあまりにもおかしい?葉村は根本的な原因があるはずと疑うのだが・・・。

 ≪詩人の死≫ 「小説TRIPPER」 97年冬季号所載

 葉村は友人である相場みのりの新築マンションでお世話になることとなった。みのりの婚約者・西村孝が、結婚を前に車で事故を起こし亡くなったからだった。警察は目撃者とタイヤ跡から自殺と考えていたが、遺書は無く、動機が全くの謎だった。西村は詩人で、事故の前に初の詩集を出版し、品切れになるほどの売れ行きだった。それなのに一体どうして?葉村はみのりから本当の動機を調べて欲しいともちかけられる。

 ≪たぶん、暑かったから≫ 「オール読物」 93年11月号所載「ホリデー」改作

 葉村の母の知り合い・市藤清乃からの依頼。娘である市藤恵子が職場で上司を刺して重症を負わせ、殺人未遂の容疑で逮捕されたという。恵子の供述は「よく覚えていない」。恵子は不眠症から精神科に通院していたことから精神鑑定を受ける予定となっている。清乃は本当の事実を確かめて欲しいと依頼する。

 ≪鉄格子の女≫ 「ポンツーン」 98年11月所載・改作

 大学生・榊浩二からの依頼は、書誌学のレポート用に特定の人物に関する文献・図書の目録を作ってくれというもの。目をつけた人物は、挿絵画家をしていた画家の森川早順。早速調査を開始するのだが、葉村は彼の作品「女」に衝撃を受ける。それは前面に鉄格子が描かれた青い世界の作品だった。

 ≪アヴェ・マリア≫ 「小説NON」 95年2月号所載・加筆訂正

 長谷川探偵調査所の水谷が担当したのは一年前のクリスマス・イヴに起きた殺人事件。その事件現場の教会から姿を消した聖母マリア像を探してくれと言うもの。水谷の妻・麻梨子は葉村の高校生時代の同級生だった。水谷が麻梨子と出会うキッカケとなったのが葉村晶であった。

 ≪依頼人は死んだ≫ 「別冊文藝春秋228号」 99年7月所載

 高校時代の友人・幸田カエデは新進気鋭の書道家。カエデのパーティで知り合ったのは、彼女のアメリカ留学時代の友人・佐藤まどかまどかは探偵の葉村に相談を持ちかける。先日「あなたは癌だ」と書かれた封筒が届いたというのだ。単なる悪戯で終わる話だったのだが、後日、まどかは自殺してしまう。彼女は本当に自殺したのか?

 ≪女探偵の夏休み≫ 「週間小説」 99年8月20日号所載

 海辺の高台にあるオーシャンビュー・プチ・ホテル。相場みのりに連れられてやって来た葉村は、このホテルで人が突き落とされる夢を見る。夢は予知夢か、はたまた?

 ≪わたしの調査に手加減はない≫ 「小説NON」 99年2月所載

 相場みのりの母親の友達・中山慧美からの依頼。小学校からの幼馴染・由良香織が夜な夜な夢に現れるという。彼女は二年前に事故死したというのだが、慧美は事故でも自殺でもなく殺されたのではないかと疑っているらしい。果たして真相は?

 ≪都合のいい地獄≫ 書き下ろし

 水谷が入院していた病院で首をつって自殺した。葉村が彼の見舞いに行ったのはもう一年も前になるのだが、自殺する数日前に葉村という名前の人物が面会に来ていた。しかも、その葉村は男性だった。一体誰が自分の名前を語って面会に来たというのか?葉村の調査が始まった。

<感想> ”ネタばれ”なしです。

 雇われ探偵・葉村晶が登場する連作短編集です。彼女はシリーズキャラとなっているようで、葉村晶シリーズは『プレゼント』・本書・『悪いうさぎ』と続いているそうです。当シリーズを読むのは本書が初めてだったので、前後作品がちょっと気になってしまいました。内容はというと、敢えて言うまでもなく、いつもの若竹さんらしいブラックな事件満載の短編集でした。

 異常なまでのエスカレート度合いを見せる身辺警護の「濃紺の悪魔」。結婚直前に謎の事故死を遂げた詩人の動機を探る「詩人の死」。職場で上司を刺した娘、その事実関係を調査する「たぶん、暑かったから」。文献・図書の目録を作ってくれと依頼され、ひとりの作家の謎に挑む「鉄格子の女」。葉村の同僚・水谷が担当した事件「アヴェ・マリア」。覚えのない診断で、癌と通知された女性からの依頼「依頼人は死んだ」。友人の相場みのりに誘われて行った海辺のホテル、そこで見た殺人の夢が物語る「女探偵の夏休み」。毎晩夢に現れる幼馴染。彼女が伝えたいことを調査する「わたしの調査に手加減はない」。同僚の謎の自殺理由を探る「都合のいい地獄」計9編

 本書で、このブラックさは格別と思わされた作品は二つ。一つ目「鉄格子の女」「女」という一枚の絵画がキーとなっているんですが、この扱いが上手いです。絵画だったり、文章だったり、映像だったりと過去から残されたキーワード真実を語るというミステリー、このスタンス自体が好きだったりします。何というか既に起こってしまったどうしようもなさみたいなものを感じられるのが、もどかしさをよんでいて良いのかもしれません。ただし、今回はかなりブラックですけどね。

 二つ目「わたしの調査に手加減はない」。夢の中で訴えかけるように見つめてくる死んだ親友キーはこの夢になるんですが、意外とありそうなところが身近さを感じて良いなと。ブラックさは「鉄格子の女」に負けないくらいですが、こちらは恐怖さえ感じます。夢は自分の潜在意識が見せるもの。夢見るものには意味があると聞きますが、こういう話を聞いてしまうと、今夜からは見る夢を今まで以上に気にしてしまいそうです。

 さてさて、最後に気になったところをご紹介。本書は連作短編集となっているんですが、一作だけ、最後の「都合のいい地獄」書き下ろしとして追加されています。この作品の存在が本書の総括として引き締め役となっています。「濃紺の悪魔」と対になっているのですが、この二作品が本書の全体的な雰囲気を作り上げているといっても良いと思います。良い感じです。

 シリーズキャラで本書の主役となっている葉村晶はすごく好感が持てます。一言で言うと信念の人って感じでしょうか。いつも辛い現実を見せられて辛さいっぱいのはずなのに、自分の突き進み方を変えない強さに好感なんだと思います。想像する現実の探偵像に近いかもしれません。

 辛口な探偵と辛口な事件。結末まで辛口だけど面白い。そんな一冊です。

<今回の気になる一言>

 十分よく覚えているではないか。不幸で面白いところだけは、明確に。

「わたしの調査に手加減はない」より 葉村 晶

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