| 若竹七海の棚 (2001.10.22 up) |
『船上にて』 短編集 8編を収録
<あらすじ>
≪時間≫ 「オール讀物」 1992年3月号
学生時代に付き合っていた五十嵐洋子(いがらしようこ)が自殺らしい。そんな噂を聞いた川村静馬(かわむらしずま)は、彼女を自殺に追いやったある事故について調べ始めた。彼女は死ぬ少し前からおかしくなっていたという。ビデオデッキを見つめ、時間だわ、時間だわと繰り返し叫んでいたらしい。彼女の死の真相とは?
≪タッチアウト≫ 「小説中公」 1994年2月号
1ヶ月後に結婚式を控えた林田ゆかりが痴漢に襲われた。幸いにもゆかりは無事だったが、妹のみどりは、結婚前の姉に傷なんてあっちゃいけないと、痴漢を撃退したのは自分にしてと申し出る。しかし、犯人の橋爪雪彦(はしづめゆきひこ)は一度では諦めなかった。未成年は大した罪にならないすぐまた戻ってくるさ、これが彼の口癖だった。
≪優しい水≫ 「オール讀物」 1992年6月号
気が付くとわたしはビルの隙間で寝ていた。見えるのは、両側から伸びるグレーの壁と、それにさえぎられ細長くしか見えない青空。身体中が痛い。一体自分に何が起きたのか?わたしは今日あった事を一から思い出そうとする。
≪手紙嫌い≫ 「小説non」 1994年6月号
志逗子(しずこ)は極度の手紙嫌いだった。そんな彼女に試練が訪れた。彼女がもっとも憧れている写真家・五十嵐満昭(いがらしみつあき)を友人に紹介してもらったのだが、彼は手紙マニアなのだという。彼に会うためには手紙を書かなくてはならない。志逗子は手紙恐怖症を克服すべく、古本屋で偶然見つけた手紙文例集を手に取った。
≪黒い水滴≫ 「小説non」 1996年9月号
義理の娘・渚(なぎさ)に殺人の疑いがかかった。問題は殺人が行われた時間のアリバイだが、その日イギリスから帰国したわたしは、確かに渚と一緒にいた。アリバイは完璧なはずだった。しかし、刑事は言う「彼女のアリバイは成立しない」と。犯人は本当に渚なのか?
≪てるてる坊主≫ 「小説中公」 1993年8月号
柴田広美(ひろみ)が向かった宿には、夜な夜な空飛ぶ幽霊が現れるという。彼女には二人の幼なじみがいた。この宿でその一人が首を吊って自殺した。幽霊は広美の幼なじみかもしれない。
≪かさねことのは≫ 「海燕」 1993年10月号
春田(はるた)は高校時代の先輩で、現在は精神カウンセラーをしている。彼の元を訪れると、彼は手紙を見せてくれた。手紙に登場する人物は5人で、このうちある人が事故で死に、ある人が殺されるという。それを当てられるかなと挑戦された。
≪船上にて≫ 「ミステリマガジン」 1996年11月号
豪華客船で知り合ったトマス・ウエストホワイトに事件が起こった。宝物が盗まれたというのだ。その宝物とはナポレオンの頭蓋骨。とんでもなく高価なものだというのだが、まゆつばくさくて仕方がない。価値はともかく、消えてしまったのは事実。こんなもの誰が盗んだの?
<感想> ”ネタばれ”なしです。
若竹さん自らが選んだミステリー短編を8編収録しています。少々込み入ったお話もあるのですが、楽しめる作品が多かったです。サラッと読んではいけません。じっくり読んで、若竹ミステリーを吟味してもらいたいかも。
自殺した元恋人の真相に迫る「時間」。結婚前のゆかりを狙う未成年の痴漢「タッチアウト」。ビルの隙間で苦悩する「優しい水」。手紙を書くのは決死の覚悟の「手紙嫌い」。完璧なアリバイが覆される?「黒い水滴」。空飛ぶ幽霊の正体に迫る「てるてる坊主」。8つの手紙から真実を推理する「かさねことのは」。表題作であり、とんでもないものが盗まれる「船上にて」の計8編。
今回はお気に入りがたくさんあります。「タッチアウト」はその題名が持つ意味と、暗いラストにびっくりさせられ、「優しい水」では、皮肉的とも言えるミステリーに悲惨ながらも笑いが漏れ、「手紙嫌い」では、この設定でどう落とすかにワクワクさせられ、「てるてる坊主」では、真相にいたるヒントと思い出話に何とも言えずあっぱれでした。
若竹ミステリーは、まだまだ未読作品が多いんですが(現時点:本書で5冊目)、イメージ的に、ああ良かったねとホッとするラストが少ない気がします。どちらかというと、ブラックなものが多いような。お気に入りで挙げた4作品も、結構きますよ、ズシンとね。まあ、またそれが現実的な物語を多く書き、常に本音で生きていそうな若竹さんらしくて良いんですけどね。文庫版に収録されたあとがきからは、その潔さ?からか、若竹さんの格好良ささえも感じさせてくれます。
本書を読んで自分自身、ん?っと思わされたのは、設定が変なミステリーが好きかも知れないってことでした。本書でいうと「手紙嫌い」。手紙が嫌いなんて、凄く変わってますよね。とても好き嫌いが発生するような代物じゃないですよね?そこにまず惹かれて、何故どうして?で、ワクワク&納得でした。しかも結末はブラックなものでしたし。
普通、物語ってハッピーエンドが多いです。たまにアンハッピーエンドで終わりっていうものもあり、それはそれでOKなんですが、基本的には、え?っとなり、終わってしまいますよね。ところが、ミステリーだと、ラストでどちらの結末が待っていても、え?っとなり、さらに”面白じゃない”となるような気がします。ミステリーってちょっと特殊な物語が可能なんですね、と思ってしまうのは気のせい?かな。
思わずニヤリとなってしまうブラックさを吟味できるかも。ズシンとブラック。そんな一冊。
<今回の気になる一言>
間違っていたってかまわない、と思えるのは、強い意志の持ち主だけだ。
「船上にて」より 土井 正雄