| 若竹七海の棚 (2001.4.23 up) |
『製造迷夢』 連作短編集 5編を収録
<あらすじ>
渋谷の警視庁猿楽町署の刑事・一条風太(いちじょうふうた)が担当する奇妙な事件の数々。そしてその事件に関わってくる超能力占い師・井伏美潮(いぶせみしお)。彼女の能力は、いわゆるサイコメトリー、物に残った残留思念を「読む」というもの。刑事と超能力探偵の名コンビ。
≪天国の花の香り≫ 「小説フェミナ」 1993年春季号
作曲家・石原流名が覚醒剤所持の現行犯で逮捕された。一条風太を訪ねてきたのは、その事件に納得のいかないものを感じている佐々木絵利子。彼女は石原流名が逮捕された時刻、彼にデモテープをもらったというのだ。デモテープを鑑定したのは、リーディング能力を持つ占い師だという。
≪製造迷夢≫ 「小説フェミナ」 1993年夏季号
猿楽町署内にて、保護された少女が万引きをした主婦に噛みつくという珍事が起こった。少女が保護されていた理由は、麻薬による酩酊状態のためだった。少女は噛みついた理由をこう言った「あのひとがあたしを殺したんだもの」。
≪逃亡の街≫ 原題(亡命の大街)「小説フェミナ」 1993年秋季号
オフィス女性連続殺人事件。この事件が始まったのは今年の二月のこと。殺害されたのはいずれも女性で、後頭部を殴打されピアノ線のようなもので絞殺という手口だった。そして現場には決まって一枚の鶏の羽根が残されていた。重要参考人は見つかったものの、彼は渋谷駅で飛び込み自殺をしてしまう。真犯人は誰なのか?
≪光明凱歌≫ 「問題小説」 1994年2月号
渋谷区内にあるEマンションでは、このところ奇妙な事件が多発していた。ドアの前にコンクリートブロックが積まれたり、真昼間に酔っ払いの集団がエレベーターホールで踊りながらストリップをしたり、差出人不明のお中元が届いたり、洗濯物が盗まれたり・・・。このマンションには何かがある。
≪寵愛≫ 書き下ろし
天下の有名医大の大学生・笹田友成が傷害致死で逮捕された。笹田はマンションの隣に住むクラブホステスの父親と口論となり、持っていたナイフで彼を刺し殺してしまったのだ。その後笹田は逮捕されたものの、キッパリと黙秘を続けてしまう。
<感想> ”ネタばれ”なしです。
若竹七海さん得意の連作短編集です。今回は探偵役が刑事と超能力者という奇妙な組み合わせなんですが、このコンビがまた読んでいて良い感じです。ミステリー小説にとどまらず、二人の恋愛模様を描いている作品となっています。
逮捕されたはずの時刻にテープをもらったという「天国の花の香り」。自分を殺した犯人に噛みついた少女の「製造迷夢」。奇妙な連続殺人事件と鶏の羽根の「逃亡の街」。シュールな事件が度々起こるマンションの「光明凱歌」。エリート大学生が犯行に及んだ理由に迫る「寵愛」。以上5編の連作短編です。
表題『製造迷夢』。製造迷夢とは、夢のようにとりとめのない考えや心の迷いを形にすること。
この題名、深いです。特に心の迷いを形にするというところ。若竹作品は現時点で、まだ数冊しか読んでいないのですが、人が持つ黒い部分・嫌な部分を取り上げたミステリーが多い気がします。普段は内に押さえ込んでいるものが、何かをキッカケとして表に浮上したら・現実の世界で形を成したら起こってしまう犯罪。犯罪なんて嫌なものに決まっていますが、欲とか見栄とか自己中心的な考え方とか、そんなものが前面に出てくるところがちょっと辛いかも。
ただ、そんな犯罪を扱いつつも、読後感は悪くないばかりか、良いものを感じる方が多いのではないかなと。文庫版の解説にもあるのですが、その効果を発揮しているのが探偵役となる名コンビとなっています。心持ち温か。
さてさて、今回お気に入りとなった作品は「光明凱歌」。犯人の悪意と裏腹に、起こる事件が凄くシュールな笑いなんです。本書で起こる事件の概要は全て、現行犯逮捕手続書と週刊誌の記事で説明されているんですが、思わず笑ってしまいました。
犯罪を起こすのは全て人。人を悲しませるのも全て人。でも、嬉しく・温かくしてくれるのも全て人。若竹さんは、人の持つ良い部分と、悪い部分とを全てを見せてくれた上で、いろいろなことを確認させてくれているのかもしれません。
製造迷夢。どうせなら良い夢を形にしていきたいですね。そんなことを思った一冊。
<今回の気になる一言>
「おんなじよ。どっちもね、特別な自分でありたいってことだもの。スターになりたいって思うのと、スターの奥さんになりたいって思うのと、女の子の心のなかでは同じことよ。わたしは他の人とは違うのよ、って見せつけたいの。自分にも世間にも」
「天国の花の香り」より 井伏 美潮 談