| 若竹七海の棚 (2000.9.4 up) |
『ぼくのミステリな日常』 若竹七海デビュー作 連作短編集 12編を収録
<あらすじ>
建設コンサルタント会社に勤めるOL・若竹七海が抜擢されたのは、月刊で発行されている社内報『ルネッサンス』の編集長。それだけでも準備が大変なのに、毎回短編小説を載せてみろ、という難題まで付いてきた。困った七海は大学時代の先輩に手紙を書き、匿名作家を紹介してもらう。かくして1年間、毎月1編ずつ合計12編の短編が、七海の元へ送られてくることとなった。
≪桜嫌い≫
足羽籐子(あしばとうこ)の住むアパート<桜木荘>には、見事な桜の木が植えられている。そんなアパートで起きたぼや騒ぎ。旅行中の河西さんの部屋が放火されたらしい。が、幸いにして、第一発見者の迅速な対応により、それほどの被害はでなかった。第一発見者は、桜嫌いという珍しい人だったのだが、その人の靴の中には数枚の桜の花びらが。この花びらが事件の真相を指し示すこととなった。
≪鬼≫
その日は、三脚とカメラを担いで公園に向かいとべらの花を撮影した。その折、女性に声を掛けられた「これはとべらですか」と。それから4、5日後、またもや公園へと行ったのだが、すると驚いたことに、先日の女性が、巨大な花バサミでもって、無理やりにとべらの枝をねじ切ろうとしていた。彼女はとべらの木に恨みがあるのだという。
≪あっとう間に≫
中学時代の同級生・寒河鷹春(さがわたかはる)から聞いたお話。バイト先の八百屋がある多田巻商店街では、多田巻ファイターズという野球チームを結成しているのだが、その熱狂振りが並外れにすごい。そんな中ライバルである百山シャイニングに、ブロックサインが流れているという疑惑が。スパイの目星はついているのだが、証拠が無い。情報の受け渡しはフランス風レストランで行われているらしい。この調査に抜擢されたのが、寒河というわけ。果たして受け渡し法とは?
≪箱の虫≫
従兄弟の彦坂夏見から聞いたお話。高校時代に箱根旅行へ行ったそうなのだが、「箱の虫」という怪談のせいで、とんでもない思い違い、失敗をしてしまったという。ロープウェイに乗ったはずの子供と老人2人組み。それぞれが忽然と姿を消した。果たして真相は?
≪消滅する希望≫
滝沢がやって来たのは、夏になって暑さ極まる頃だった。「俺、ノイローゼだと思う」。聞くところによると、毎年夏になると決まって、朝顔の女が夢に現れるのだという。しかも不思議なことにその女は年々細くなっていき、小さくなっていき、当初は鮮やかだったその姿も、だんだんとぼんやりとしてきたとか。果たして夢に出てくる幽霊の正体とは?
≪吉祥果夢≫
高野山で出会った一人の女性・岸本和子。彼女はここへ修行へ来たのだという。その彼女から聞いた霊体験。近所にある木下産婦人科医院はどことなくしめっぽい感じがしてならなかったのだが、ある日、そこを通りかかると、子どもの悲鳴らしきものが聞こえてきたのだ。気のせいと思いながらも、気分の悪くなった彼女だったが、たまたま出会った小机さとこに介抱される。さとこにギョッとしたのは、さとこが持っている安産のお守りの数。様々な種類のお守りをぞろぞろと首に下げているのだ。
≪ラビット・ダンス・イン・オータム≫
先輩の円山さんの紹介で、建築資材の業界紙を発行している会社でアルバイトを始めたぼく。そこでのお話。昨夜のこと、円山さんが取引先の新しい部長・サイトーさんと賭けをしたらしい。サイトーさんの娘の名前を当てろというのだが、正解すれば広告料を割引無しの定価で払ってもらい、不正解だったら、一回無料で広告を出させてあげるというもの。ヒントは関東の5番目で県の花と関係あり。さてはて、賭けの結果は如何に?
≪写し絵の景色≫
大学時代の先輩である松谷弓子が泥棒の疑いをかけられた。美術雑誌の編集部に勤める彼女は有名な版画家・柚木道月(ゆきどうげつ)の担当になったらしい。だが、その先生の力作「深海の景色」が何者かによって盗まれてしまったという。枚数はもちろんのこと、元版までもが消えてしまった。果たして元版はどこへ?
≪内気なクリスマス・ケーキ≫
知り合いの新居のお話。話は12年前にさかのぼる。新居には妊娠した姉がおり、姉に思いをよせているらしい隣家の友人・酒井優介がいた。クリスマスの日、優介から届いたケーキを食べた姉が突然救急車で運ばれるという事件があった。幸いお腹の子供ともども大事には至らなかったのだが、その後優介から、あのケーキにはシクラメンが入っていたと聞かされた。シクラメンには食べると流産するという迷信があった・・・。
≪お正月探偵≫
友人の坊野章吾からの電話。「買い物脅迫症。神経症の一種だよ」。坊野の話によると、朝目が覚めると部屋の中に見たこともないようなものが溢れており、毎月貯金がローン会社にごっぞり持っていかれているらしい。しかも本人にはまったくの記憶がない。このため、跡をつけることで、これが本当に病気のせいか確かめて欲しいと頼まれた。実はこれには意外な真相が。
≪バレンタイン・バレンタイン≫
以前家庭教師をしていた教え子の女の子からの電話。チョコレート売り場で奇妙な女性を見かけたという。その女性は、古典的な板チョコを買って、すぐさま中を確認、どうやら気にらなかったらしくチョコを売り場に戻しては、また別なチョコを買っていったという。気になった教え子は、女性が買ったチョコを食べ比べてみたのだが、びっくり。元に戻した方はあまり美味しくなかったという。その女性には味を透視する能力があった?
≪吉凶春神籤≫
大学のゼミで一緒だった芳野道子の失恋話。ミツヒロと出会ったのは上海だったという。日本に帰ってきてからも偶然の再会があって、お付き合いが始まった。ミツヒロにはおみくじを引く趣味があって、引いたおみくじはファイルにきちんと収めておくらしい。そんなある日、ミツヒロから別れを告げられた。理由はおみくじ。8枚連続で引いてしまった「凶」のおみくじを見せられ、「こう相性が悪くちゃしょうがないだろう」。話を聞いたぼくは、おみくじについて告げねばならないことを思いついた。
<感想> ”ネタばれ”なしです。
若竹七海さんのデビュー作は、雑誌の連載形式をとった、ちょっと変わった連作短編集です。流石はデビュー作と、うならせてもらえる力作だと思います。
コンパクトなお話の割には、奥が深いミステリーが多いし、ホラーっぽいお話も収録されています。毎月発行されている社内報に掲載、という形式なので、季節感も四季折々。以前、『サンタクロースのせいにしよう』を読んだときにも感じたのですが、若竹さんは季節感を意外と重視している作家さんかもしれないなと。
最近知ったのですが、創元推理文庫の連作短編集には大抵お約束となっているものがあるそうです。それは、連作短編の最後には、今までのお話を総括するようなストーリーが待っている、というもの。つまり、短編自体でももちろん楽しめるんですけど、個々に仕組まれているトリックが、最後の集大成で大きなトリックとなって再び浮上し、より楽しめるものとなっているんです。
一度解決したお話・真相を、いやまてよと、再び違った視点で再検討するって、結構好きです。これをミステリーとして成功させるためには、手の込んだ伏線が必要となると思うんですけど、この点については、言うまでもなく申し分なし。上手いです。
さてさて、今回お気に入りとなった作品は、「写し絵の景色」と「バレンタイン・バレンタイン」。前者は、事件自体が、驚きの偶然から起こっているあたりが面白く、後者はやさしい気持ちになれる真相が良い感じです。両方とも文庫本で30ページほどの量。手軽に楽しめるのだけれども、収穫の多い良質の作品です。
ミステリーで好きなのは長編か?短編か?基本的には、その世界観・お話にどっぷり浸かれる長編が好きなんですけど、こういう作品を読んでしまうと、ミステリーって単に長さではかれるものではないなと感じます。双方共に長所短所があるのだけれども、突き詰めていってホントに残るものって、「不思議な謎」という一点ですから。この謎をどうやって形にしていくか、どうやって彩色していくか。その方法が違うってことなんですよね。
若竹作品デビュー作は、「不思議な謎」の彩り方が鮮やか。趣向をこらした四季折々な一冊です。
<今回の気になる一言>
しなくてはならないことをさせられている状態を忙しい、という。したいことをしているのは、ひまという。
ぼく 「ラビット・ダンス・イン・オータム」より